2016.02.23
(Tue)

アマチュアのジレンマ

イギリスの弦楽専門誌The Stradにあった、大人になってからヴァイオリンを始めた50代の読者の相談とそれに対する回答が面白かったので。

The Strad : Ask the Experts: how can an adult amateur violinist progress beyond practising for exams? [theStrad 16.02.22]

イギリスにはABRSM(王立音楽検定)という音楽のグレード試験があることは前に書いたことがありますが、 これが音楽をやる人の目標や励みにもなる一方、これにこだわり過ぎるアマチュアが道に迷うこともあるという例。 もしヴァイオリンやチェロにも日本の稽古事のような段級制度があったら…と考えると、容易に想像がつく気がします。

相談者は大人でヴァイオリンを始めて9年でグレード7。ABRSMのグレード8は音大入試レベルといいますから、相当な上達と言っていいでしょう。下記は抄訳。

質問: レイト・スターターとして9年、ABRSMのグレード7で停滞しています。
グレード8は技術的に難しく、2度不合格になって、もしかしたら自分はこのレベルを超えることに心理的障壁があるのではないかと思うようになりました。
私はこの試験を励みにしており、もしグレード8に受かったらその先どうしたらいいかわかりません。
私は自分で曲の譜読みをして練習するのは大好きですが、今50代を迎えて、音大でさらに勉強するにはその実力があったとしても年を取りすぎたと感じています。
こんな私に何かアドバイスはありますでしょうか?──まず自分の実力を発揮する心理的障壁について、それからアマチュア音楽家が進むべき道について。

これに対する3人のヴァイオリン指導者からの回答。

回答者1:
あなたの質問には多くのアマチュア奏者が共感するでしょう!....
ABRSMのグレード8はとても難しいです。特に音階。アマチュアの大人は、弾く曲の調の音階は弾けなければいけませんが、嬰ト短調の曲がどれだけあるというのでしょう?
われわれはいつもベストの演奏ができるわけではないのは、あなたもわかっていることでしょう。 あなたは自分で思っているよりずっといい奏者なのです。たった9年であなたがそこまでたどり着いたことは驚きです。
自分の感情をマネージ──あるいはガード──することが大事です。
ABRSMは特に若くて競争心が旺盛で音大を目指すような人の役には立ちますが、アマチュア音楽家にどれだけ役に立つだろうかと思い、あまりおすすめしようとは思いません。....
グループを作って、誰か指導者を見つけてみてはどうでしょう。楽譜ならいろいろあります。教会で弾くことを考えてみてはどうでしょう。たくさんの大人のアマチュアの方がそうしています。個人練習はどうかそのまま続けて、同じような方を見つけてみてください。 人生の友といえるような方ができて、音楽に新しい目的を感じることができると思います。

回答者2:
あなたはすばらしい進歩をして来られたようですが、グレード試験にとらわれ過ぎているようです。 あなたがバイオリンを弾く理由を再度考えてみてください。 それは音楽と楽器を通して自己表現する喜びが中心であるはずです。
グレード7と8には技術的にも音楽的にも大きく隔たりがあり、両面を伸ばすのには時間が掛かります。
演奏活動の幅を広げてみてください。地元のアマチュアオーケストラや仲間うちの室内楽に加わってみてください。....
ソロのレパートリーを幅広く見てみてはどうでしょう。試験の課題曲にならない曲でもいい曲がたくさんあります。
グレード8に到達することはすばらしいことですが、それは付帯的なもので、主たる目的にはなりません。 あなた自身にのしかかっているプレッシャーを取り除いてあげて、楽器を弾くこと自体を楽しんでください。 そうすればいかに速く上達するか驚かれることと思います。

回答者3:
9年でそのレベルに達したとはすばらしい。あなたがされてきた努力はりっぱだと思います。 あなたがこれからも上達するのを妨げる心理的障壁というものを思いつくことができません。
しかし、非常に速く上達した人が、グレード8に必要とされるレベルの脱力や筋肉のコントロールを 身につけていないということはあります。もちろんこれはあなたが弾いているところを見てみないとわかりません。....
これからの道について、グレード8の後にはABRSMディプロマというのがあります。
またお近くに住む上級のアマチュアピアニストを見つけて、一緒に弾いてアイデアをやりとりし合うととてもためになるでしょう。 形式的な試験の代わりに試験のような"本番"──聴衆がいてもいなくても──を設定して練習に励むのもいいかも知れません。

[原文]

これはグレード試験のあるイギリスだけの話ではなく、何か一つ夢や目標を持つとそれにこだわり過ぎてしまう大人のアマチュアが共通して陥りそうになるジレンマではないでしょうか?

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