2015.07.25
(Sat)

ブラームスのチェロソナタ第1番ホ短調を贈られ"初演"したのはアマチュアチェリスト

七夕の会で弾いたブラームスのチェロソナタ1番ホ短調Op.38について、チェリストの山本裕康さんがツイッターで紹介しておられたエピソードが面白く、個人的にもタイムリーだったので、調べてみました。

ブラームス 作曲家別名曲解説ライブラリー 7 調べてみるとこのチェリストは、ブラームスがウィーンで知り合い親友になった声楽教師ヨゼフ・ゲンスバッハー(Josef Gänsbacher,1829-1911)で、ブラームスはこのチェロソナタ1番を、チェリストとしては"アマチュア"のゲンスバッハーに捧げているのです! ゲンスバッハーは、ブラームスが探していたシューベルトの楽譜を手に入れたりするのに助力したので、その感謝のしるしだったようです[「作曲家別名曲解説ライブラリー・ブラームス」音楽之友社,1993]。

チェロソナタ1番が完成した1865年の夏、ゲンスバッハーのチェロ、ブラームス自身のピアノで「試演」されたことは「ブラームスの音楽と生涯」(吉田秀和,音楽之友社,2000)に書かれていますが、このときにブラームスとゲンスバッハーの間で、ピアノの音量をめぐって上のようなエピソードがあったことは書かれていませんでした。

そこでこのエピソードについて書かれているWikipediaの英語版が出典としている "The Chamber Music of Johannes Brahms"(Henry S. Drinker,Philadelphia: Elkan-Vogel Co.,1932)を見てみると:

... In the course of this performance Brahms played so loud that the worthy Josef complained that he could not hear his cello at all — "Lucky for you, too", growled Brahms, and let the piano rage on.
[このとき演奏する光栄を得たヨゼフ(ゲンスバッハー)は、ブラームスのピアノの音量があまりに大きいので、自分のチェロが聴こえないと不平を言ったところ、ブラームスは「それも君には幸運なことだよ!」と怒鳴るとかまわずピアノをかき鳴らし続けた。※拙訳.原文はarchive.orgから]

同じエピソードをドイツ語で紹介しているバイエルン放送の曲目解説では"Lucky for you"のところは、"Glücklicherweise!"(幸いなことに!)と。

なお、正式な公開初演は6年も経って1871年、ライプツィヒでエミール・ヘーガー(ゲヴァントハウス管弦楽団の首席奏者でユリウス・クレンゲルの先生)のチェロとカール・ライネッケのピアノによるものだったようです[上記「作曲家別...」より]。

ブラームスの、チェロソナタ1番ほどのチェロの名曲を捧げられて"初演"したのがアマチュアチェリストだったということには、驚きと同時に、親しみを感じました。

また、このエピソードは、この曲やベートーベンのチェロソナタのように、正式には「ピアノとチェロのためのソナタ」と名付けられている曲におけるピアノとチェロの関係──ピアノとチェロとが対等の関係で音量はピアノの方が圧倒的に大きい──を顕著に示したエピソードだともいえると思います。

たしかにこの曲は、演奏技術的な難易度としてはあまり高くなく、大人からチェロを始めたアマチュアチェリストでも挑戦できるソナタですが、ピアニストと対等の関係でこの曲にふさわしい憂愁を帯びた深い音色で奏でるには、一生かかっても追いつかないと思わせる難しい曲なのですよね…

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