2010.10.02
(Sat)

ロストロポーヴィチのアルペジオーネ・ソナタ

 シューベルト:アルペジオーネ・ソナタ、他ロストロポーヴィチ(ムスティスラフ),ブリテン(ベンジャミン シューベルトの「アルペジオーネ・ソナタ」のことを僕を通じて初めて知ったバイオリン弾きが、「すばらしい曲!」とすっかりこの曲に魅せられた様子で、「こんないい曲をレッスンで習ってるの!?」とあんまり尊敬されたものだから(2楽章だけだけどね…)念のため誰のCDを聴いているのかたずねたところ、ロストロポーヴィチだというので、このCDも購入してみました。

(お手本にするプロの演奏CDを複数「聴き比べる」ようなことはなんとなく「失礼」にあたるような気がして、あまりしないのですが。)

ピアノ伴奏が、作曲家としても有名なあのベンジャミン・ブリテン(1913-76)で、1968年の録音。アルペジオーネ・ソナタに魅せられて、この曲が今は廃れた楽器のために書かれたことを知り、ないのならと自分で製作してしまわれた奥村さん[アルペジョーネの世界]も、きっかけはロストロポーヴィチのこの演奏を聴いたことだったと書いておられます。

ところで、このCDの解説を読んでいて、おや、と思いました。ロストロポーヴィチにこの曲を弾くよう持ちかけたのは、1960年~63年頃、ブリテンのほうからだったらしいのですが、

その時のことについて、ロストロポーヴィチは次のように回想する。
私はそれまでシューベルトのソナタを弾いたことがなく、曲をさらいはじめたのはかなり後、演奏会のわずか数日前のオールドバラだった。…」
[※イギリス・オールドバラはブリテンが音楽祭を主宰していた地]

ロストロポーヴィチほどのチェリストが、名声も地位も確立した(ソ連からの亡命はまだ後のこと)三十代のこの頃まで「アルペジオーネ・ソナタ」ほどの名曲を弾いたことがなかったなんてことがあるでしょうか?

CDの解説文ではそれがアルペジオーネという廃れた楽器の曲であることと関連づけられていますが、実際にはそれまでにフォイアマンもフルニエもトゥルトリエもアルペジオーネ・ソナタの録音を出していますから、すでにチェロの定番レパートリーとして確立していたものと思われます。

おそらくロストロポーヴィチにしてみれば、アルペジオーネ・ソナタを弾いたことがないといっても、「公の演奏会では」という限定付きではないかと思われ、実際には若いときから知っていて「ふんふん、これなら数日間さらえば弾けるな…」なんて思っていたのかも知れない。

また、ロストロポーヴィチにしてみたらあのショスタコーヴィチやプロコフィエフといった作曲家が自分のためにチェロ曲を書いてくれるのだから、わざわざシューベルトのアルペジオーネ・ソナタを弾いているヒマはなかったかも知れない。

ブリテンもこのあとロストロポーヴィチのために「チェロ交響曲」と「チェロ組曲」を書いています。[追記] アルペジオーネ・ソナタが取り持ったブリテンとロストロポーヴィチの二人の友情について英ガーディアン紙の記事[guardian.co.uk 11.06.16] ロストロポーヴィチはブリテンの伴奏でアルペジオーネ・ソナタを弾いた後、他の誰ともこの曲を弾きたがらなかったそうです。

実は、ブリテンの伴奏でアルペジオーネ・ソナタを弾いたのはロストロポーヴィチが最初ではなく、それ以前にモーリス・ジャンドロン(1920-90)が同じイギリス・オールドバラ音楽祭で弾いており、ブリテンははじめこのジャンドロンのためにチェロ曲を作曲しようと言っていたのに、この申し出を取り下げて一転、ロストロポーヴィチのために書いた、という流れだったようです。[Maurice Gendron - www.cellist.nl]。7つ年下のロストロポーヴィチに座を明け渡したかっこうのジャンドロンの心中はいかばかりだったでしょうか…。 芸術と人生 [DVD]ロストロポーヴィチ(ムスティスラフ)

ところで、この機に見てみたのですが、カザルスとデュプレにはアルペジオーネ・ソナタの録音がありませんね。

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タグ : ロストロポーヴィチ 

コメント

西洋音楽

ロストロポービッチがアルペジオーネソナタを知らなかったとしてもある意味納得。ピアノのアシュケナージもヨーロッパに渡るまでベートーベンを(価値ある音楽として)知らなかった位だから。つまり、ロシアに生まれた音楽家はロシア音楽ばかり勉強する、音楽は全部ロシア。それだけでも沢山あるし長い伝統がある。世界はロシアだけ。それは、アメリカ人がワールドと言えばアメリカのことを指すのと同じでしょう(^_^)
 日本でクラシックと言えば西洋音楽であるのとは対照的ですね。

2010/10/05 (Tue) 20:32 | goshu #jHSMZ1/Y | URL | 編集

ロシア

> goshuさん
あー、たしかにロシアは伝統も人材も豊かですからねえ。今は旧ソ連のときほどではないかも知れませんが。

2010/10/06 (Wed) 09:43 | yoshi #mQop/nM. | URL | 編集

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