2016.10.23
Sun

国際「チェロの日」?

スティーブン・イッサーリス先日の記事でも登場した息子ガブリエル氏が、国際チェロの日 International Cello Day というものを企画しているそう。

[公式サイト, Facebook, Twitter]

パブロ・カザルス(1876-1973)の誕生日である12月29日を世界の「チェロの日」として、それぞれのやりかたで祝おうという提案。チェロ仲間と集まる、チェロの演奏動画を投稿する、またチェロを弾いたことがなければこの日から始めてみる…など、やりかたは自由、というわけ。

偉大なパブロ・カザルスの誕生日を特別な日として祝うことは、世界中のチェリストがもろ手を挙げて賛成するところだと思いますが、果たして大きなムーブメントにまでなるかどうか。

ちょっと連想するのは、バッハの誕生日を祝って街で演奏することが、世界各地で自律的に、ゆるく連帯しながら広がった「バッハ・イン・ザ・サブウェイズ」[過去記事]で、こうした活動にもヒントを得ているのではないかと思います。

タグ : スティーブン・イッサーリス  パブロ・カザルス 

2015.01.07
Wed

オリンピックのチェリスト

アメリカのチェロ情報サイトCelloBelloで、スペインのチェリスト、ルイス・クラレット(1951-)が1992年バルセロナ五輪の閉会式で「鳥の歌」を弾いている映像を紹介しているのを見ました。 ルイス・クラレット氏は昨年も来日して日本チェロ協会でマスタークラスを行ったりしており、そのときのプロフィールで氏がバルセロナ五輪で「鳥の歌」 を弾いたことは読んでいましたが、映像は初めて見ました。

歌っているのはやはりスペイン・カタロニアのソプラノ歌手で、ビクトリア・デ・ロス・アンヘレス(1923-2005)。「鳥の歌」で聖火を消すという演出に、あっと思いました。

思い起こされるのは、もちろんパブロ・カザルス(1876-1973)のこと。実はカザルスとオリンピックにも深い因縁があったのだそう。

一九九二年のバルセロナ・オリンピックの閉会式で、カタルーニャ民謡「鳥の歌」が、歌つきで演奏された。だいぶ前のことであるが、僕の胸は熱くなった。実はカタルーニャ人にとって、バルセロナ・オリンピックも、「鳥の歌」も、ある感慨が秘められていたのだ。カタルーニャはスペイン東南の自治州で、バルセロナはその首都である。

それは五十六年前の一九三六年、第十一回オリンピック開催地はナチスのベルリンに決まったのだが、次点だったバルセロナで、反ファシズムの人民オリンピックを開こうとしていた。 カタルーニャが生んだ巨大なチェリスト、パブロ・カザルスは、開会式でベートーベンの「第九」を指揮することになっていた。 ところが数日前、ヒトラーに後押しされたフランコ軍と政府軍との間に内乱が勃発、人民オリンピックは中止になった。 だが一週間後、ベルリン大会で、高らかに「第九」が演奏された。 カザルスは「ファシズムのあるところに平和はない」といって、ピレネー山脈を挟んだ反対側のフレンチ・カタルーニャのプラドという寒村に亡命した。...
[大木雄高 音曲祝祭行 「アサヒグラフ」1998.05.15 ※強調は筆者]

****

オリンピックの開会式または閉会式で弾いたチェリストというと、記憶に新しいところでは、 2012年のロンドン五輪閉会式でジュリアン・ロイド=ウェッバーがエルガー「愛のあいさつ」を弾いたのと[過去記事]、 2002年のソルトレイク冬季五輪開会式でヨーヨー・マがスティングと共演したことがありました[YouTube]。

タグ : パブロ・カザルス 

2014.10.29
Wed

カザルスの名言の出典

ツイッターなどをながめていると、有名人が言ったとされる名言・箴言がたくさんの人にツイートされているのを見かけます。 ただ、多くはいつどういう文脈で言ったのか、原典が示されず、 本当にその人がそんなことを言ったのか?みんなが受け取っているような意味で言ったのか? よくわからないケースがたくさんあります。
Complete Published EMI Recordings 1926-1955 Import
Pablo Casals

そうしたものの中には偉大なチェリストが言ったとされることばもあります。英語圏でよく流れているものの一つが:

The legendary cellist Pablo Casals was asked why he continued practice at age 90.
"Because I think I am making progress," he replied.

伝説のチェロ奏者パブロ・カザルスは、90歳になっても毎日練習を続ける理由を尋ねられて答えた。
「まだ上手くなっていると思うんだよ」。[※拙訳]

この言葉を、パブロ・カザルス(1876-1973)が実際に言ったのか?言ったとすれば、いつどういう状況か?…Quote Investigator(「名言探偵」)という、古今の名言・箴言の原典を調べているサイトが調べた記事がありました。

I Feel that I Am Making Daily Progress - Pablo Casals? Apocryphal? [Quote Investigator 14.02.12]

かいつまむと、カザルスは実際にこれに近い発言をした証拠があるのだそう。

最初は、戦争が終結に向かおうとする1944年、カザルスが「練習を再開しました。日々進歩しているのを感じます」とニューヨークタイムズの記者宛ての手紙に書いているらしい。このときカザルス67歳。

次は1958年、アメリカのコラムニストLeonard Lyons(1906-1976)という人が、当時カザルスを描いた映画の監督とカザルスとの間のやりとりとして、上の言葉とほぼ同じことを書いているのだそう。 カザルスが80歳になった頃のこと。このときの言葉が翌1959年5月のリーダーズ・ダイジェスト誌に下記のように引用されたので、これが広まったのかも知れない。

The world’s foremost cellist, Pablo Casals, is 83. He was asked one day why he continued to practice four and five hours a day. Casals answered, “Because I think I am making progress.”
— Leonard Lyons

***

日本語でよく流れている「名言」としては、ヨーヨー・マ

人生でいちばん大事なことは「心地よさ」を感じること。偏見をもたないこと。
と言ったというのが、たくさんの人に繰り返されているのですが、出典を書いている人を見ません。 不思議なのは、流れているのは日本語ばかりで英語バージョンを見ないのです。

これはヨーヨー・マがいつどういう文脈で誰に向かって言った言葉なんでしょうね?あるいは、本当にヨーヨー・マはそんなことを言ったのでしょうか?

タグ : パブロ・カザルス  ヨーヨー・マ 

2014.10.14
Tue

カザルスのチェロが受け継がれた日

Tsidtsadze: 5 Pieces on Folk Themes - Popper: Tarantella, Op. 33
Amit Peled

少し前に、アメリカのチェリスト、アミット・ペルド(Amit Peled)が、パブロ・カザルスが弾いたゴフリラーのチェロ(Matteo Goffriller 1733年作)を受け継いで弾いているという話を書きましたが、彼がこのゴフリラーをマルタ・カザルス・イストミン夫人から貸与されるに至った経緯を、自身の視点で書いた記事がありました。

How I came to play Pablo Casals's Goffriller cello [opusmagazine.co.il 2014.09.17]

(おそらく2年前、2012年)7月のある日、アミット・ペルドはニューヨークで、1日に3本のチェロを試奏することになっていた。 朝は楽器商のところでストラディバリ、昼はマルタ夫人に会ってカザルスのゴフリラー、夜は元世界銀行総裁ジェームズ・ウォルフェンソン氏(1933- )に会って氏のガルネリ
A Global Life: My Journey Among Rich and Poor, from Sydney to Wall Street to the World Bank
James D. Wolfensohn

(このウォルフェンソン氏はアマチュアチェリストでもあるというので調べてみると、41歳のときジャクリーヌ・デュ=プレに習ってチェロを始め、50、60、70歳の誕生日に自身が理事をつとめるカーネギー・ホールでコンサートを開き、そこでヨーヨー・マとも共演したという──ガルネリのチェロを持っていることも考え合わせると──同じアマチュアチェリストとして許しがたい経歴の持ち主…[※後日追記]

この3本を試奏したときのアミット・ペルドの心の動きが、文章からよく伝わってきます。 特にチェロの歴史を塗り替えた偉大なカザルスのゴフリラーを弾く時、ケースを開けて楽器を触ることすらためらわれたこと、楽器からカザルスのパイプの香りがする気がしたこと、夢が叶ったという思いに遠く離れた母親のことを思ったことなど…。

チェロ奏者として楽器を選ぶのには、冷静な比較ができる環境ではなかったかも知れませんが[過去記事: 楽器選びについてアルバン・ゲルハルトが語る]、 提供者と奏者との「お見合い」の場でもあったかも知れません。 いずれにしてもチェロ奏者として「夢のような一日」だったことでしょう。

アミット・ペルドはこの数週間後、マルタ夫人とウォルフェンソン氏の両方から貸与の意向のメールをもらい、カザルスのゴフリラーを弾くに至ったわけですが、もう一方のガルネリのまろやかな音色も「これまで見た中で最も美しい女性のよう」と心に残っていて、ガルネリも「愛人」として弾けたらと密かに思っている…と正直な告白で結んでいました。

マルタ・カザルス・イストミン夫人とアミット・ペルド、そしてゴフリラーのチェロとの再会のようす(おそらく今年8月)。

[追記11.05] カザルスのチェロが引き継がれたことについて、ウォールストリート・ジャーナルに詳しい記事。引き継いでから、大がかりなオーバーホールが必要なことがわかり、マルタ夫人もこれを快く認めたといった経緯まで。
Pablo Casals’s Cello Gets a New Life[Wall Street Journal 14.11.04]

タグ : パブロ・カザルス 

2014.08.19
Tue

美術館でバッハ

イスラエル生まれでアメリカのチェロ奏者、アミット・ペルド(Amit Peled)のバッハ無伴奏組曲1番全曲の演奏。 今月2日、アメリカのマサチューセッツ州で。彫刻家をしている姉(妹?)の個展に合わせて美術館で行われたコンサートだそう。

このアミット・ペルドの弾いているチェロは、なんとあのパブロ・カザルスが弾いていたゴフリラー1733年作のチェロなのだそうで、 2年前にカザルス財団とイストミン夫人からこのチェロを受け取ったペルドは「まだマエストロのパイプの香りがする」と言っています[amitpeled.com]。

タグ : パブロ・カザルス 

2014.05.16
Fri

藝大チェロアンサンブル

東京藝大が月1回行っているコンサートでチェロアンサンブルを聴いてきました。出演は河野文昭さん、中木健二さんと大学院在学・修了のかたたち総勢8人。

プログラムはパブロ・カザルス(1876-1973)の特集。大学院の特別研究で昨年カザルスを取り上げて研究したのだそう。

前半はカザルス自身が作曲した「カニグーの聖マルタン祭」「すべての人よ」「鳥の歌」「東方の三賢人」(冒頭の2曲は初めて聴いた)。 後半はカザルスが編曲に携わったフォーレ「夢のあとに」を今年フランスから帰国し准教授に就任された中木健二さんのソロで、ワーグナー「夕星の歌」を教授の河野文昭さんのソロで。河野さんはトークにプログラムノートに演奏にと大忙し。 院生・修了生たちも多彩な人材が揃っていて面白い。

最後の「サルダーナ」は、3年前のチェロコングレスで百数十名の大アンサンブルで 弾いた記憶が新しいけど、名手8人の「サルダーナ」も実に楽しそうに弾いていておもしろかった。アンコールは「サルダーナ」のフィナーレをもう一度。 Pablo Casals Portrait [Box Set, Import]

カザルスはチェロ以外に指揮者としても活動しただけでなく、作曲家としても相当野心的だったのではないかと、「サルダーナ」を弾いたときから思っていたけど、カザルスにはまだ世に出ていない楽譜も多いらしい。このぶんでは没後50年にでもならないと――昨今の国際交渉では70年に統一という話もあるけど――われわれが「作曲家としてのカザルス」の全貌を知ることはないのかも。

会場の台東区ミレニアムホールは音のいい立派なホール。 このコンサート、従来は奏楽堂で行われていたところ、 改修工事のため平成30年まで使えないのだそう。そうと知っていれば一度奏楽堂でコンサートを聴いてみたかったと思った。

タグ : パブロ・カザルス 

2014.04.27
Sun

錦織選手、バルセロナ決勝進出→優勝!

錦織選手がバルセロナの大会で準々決勝チリッチ、準決勝グルビスに勝って決勝進出!決勝の相手に勝ち上がってきたのはナダルでなく格下のヒラルドなので優勝のチャンス?!

大会当初は、股関節の故障明けにしっかりプレーできているだけで安堵していたのに、ここまで来ると優勝を期待してしまうのだから、見るほうは欲張りなものです。

一方、ここで体を酷使して5月の全仏に影響が残らなければいいが、などと考えると、錦織選手が快進撃をしていても、結局、心安まるときがありません。

右は錦織選手の決勝進出を伝える大会公式サイト。「バルセロナのツナミ」という見出しは、それだけ今の錦織選手に勢いがあることを表したかったのだろうとは思いましたが、ちょっとどうなのかな、とは思いました…。

決勝戦は27日23時(日本時間)から。GAORAで生中継。

追記1: 錦織選手、6-2 6-2で勝って優勝!

追記2: 優勝後のインタビュー(ATP公式チャンネルから)。

追記3: 上のインタビューにもあった、大会優勝者がプールに投げ込まれる“儀式”。うれしそう!

追記4: なお、この日の決勝の前、2日前の25日に亡くなったFCバルセロナの前監督フランセスク・ビラノバを追悼してカザルス「鳥の歌」が流れ、スタジアムにいた全員が黙祷した。
カザルスはもちろんバルセロナのあるカタルーニャ地方の生まれ。そのカザルスと錦織選手の誕生日が同じ12月29日だということを知っていて、特別な感慨で見ていたファンはそう多くないかも…

タグ : 錦織圭  パブロ・カザルス 

2012.09.20
Thu

モーストリー・チェロ

きょう20日発売のMOSTLY CLASSIC 11月号がチェロ特集! [公式サイトamazon] MOSTLY CLASSIC (モストリー・クラシック) 2012年 11月号

さすがクラシック音楽ファンの雑誌だけあって、チェロの歴史、古今の巨匠や、現代の国内外の注目奏者、バッハの無伴奏チェロ組曲をはじめ協奏曲・ソナタなど主な名曲と、それぞれで聴くべき「名盤」が、多彩な執筆陣によってひととおり触れられていて、これ1冊を読めばチェロの奏者や名曲についていっぱしの薀蓄が語れそうな内容です。

もちろん、「へえ」と初めて知ることがたくさんありました。

エルガー(Elgar)の見出しのつづりがElgerに間違っていたのは(p.57)、まあ細かいこと。

タグ :   パブロ・カザルス 

2011.08.26
Fri

サン=サーンスのチェロ協奏曲とベートーベン「田園」の関係

サン=サーンスのチェロ協奏曲Op.33について見つけた話。

パブロ・カザルス(1876-1973)は、サン=サーンス(1835-1921)に実際に会って、作曲者自身の伴奏でサン=サーンスのチェロ協奏曲を弾いて絶賛されたとのことですが(13歳のときとも18歳のときとも)、このときかどうかはわからないけどカザルスはサン=サーンス自身から 「このチェロ協奏曲はベートーベンの交響曲第6番『田園』に着想を得た」と聞いたらしい。

ドヴォルザーク&サン=サーンス:チェロ協奏曲 ジャクリーヌ・デュ・プレ いっぽうジャクリーヌ・デュプレ(1945-87)は、やはり10代のときパブロ・カザルスのマスタークラスでサン=サーンスの協奏曲を弾くのですが、 デュプレの回顧によると、そのときカザルスはこの協奏曲が「嵐が去ってやがて静けさと平穏が戻る」と描写したとのこと。

以上は、Jacqueline Du Pre: Her Life, Her Music, Her Legend (Elizabeth Wilson著,1998)という本に出てくる話。

たしかに、サン=サーンスのチェロ協奏曲の冒頭は、田園4楽章の嵐と雷鳴を連想させるし、2楽章の3拍子は田園3楽章の舞曲風を思わせます。

誰でも思い至りそうなことではありますが、それを直接サン=サーンスからカザルスが、カザルスからデュプレが聞いたとなると、意味合いの大きさがちょっと違うように思います。

個人的にも、同じこの時期に2曲を弾くことになったわけで、なんだかめぐり合わせを感じました。

タグ : パブロ・カザルス 

2011.07.26
Tue

藤原真理さんの書評「『無伴奏チェロ組曲』を求めて」(エリック・シブリン 著)

「『無伴奏チェロ組曲』を求めて」(エリック・シブリン 著)について、チェリストの藤原真理さんの書評が北海道新聞に掲載されていました。

「無伴奏チェロ組曲」を求めて バッハ、カザルス、そして現代
名曲の歩み丹念に追う (評 藤原真理)

…(バッハは)音楽の低音を支える補助的な役割に甘んじていたチェロのために6曲の無伴奏組曲を書き残した。この作品はカザルスというチェリストが発掘して世に知らしめるまで約200年間眠っていたが、今ではチェロ音楽の聖書ともいわれている。

音楽の専門家でもないのにこの作品に魅入られ、一般読者を対象にした本を書いた人物が、本書の著者である。(中略)ある日、ぶらりと出かけた無伴奏チェロ組曲の演奏会が、著者の人生を変えてしまう。(中略)ついにはチェロを習い始めて、無伴奏組曲に挑戦しさえする。ギターの素養があった著者だが、チェロという楽器の手習いは並大抵ではない。バイオリンを弾く力の5倍を要する大きな楽器でごまかしがきかず、なかなか楽しむまでに至らないものだ。著者が受けた衝撃の強さが想像できる。

(中略)音楽作品について書かれた本は、簡素すぎるか学術的すぎるかのどちらかが多いが、本書は中間に位置して、なおそれにとどまらず、無伴奏の誕生から現代までの歴史を再構築した。著者の澄んだ目線は魅力的だ。肖像画の裏にあるバッハの人間味にも触れていただきたい。
[全文 北海道新聞 ほん@doshin 2011年07月17日掲載分]

「無伴奏チェロ組曲」を求めて ─ バッハ、カザルス、そして現代 エリック シブリン (著), 武藤 剛史 (翻訳)

この本については、2年前に原著を読んだときに強く印象に残ったので感想を書きました。

その後、今年5月に邦訳が出版されていました。先日、店頭で手に取ってみましたが、このりっぱな外観と値段だと、「一般読者」に向けられていると気づく人はなかなかいないかも。

タグ :   パブロ・カザルス 

»