2017.08.31
(Thu)

演奏中の表情の問題

これはだれでもがコンサートなどに行った後で思いをめぐらせたことがある問題だと思いますが、 演奏中の顔や体の表情の問題について、チェリストのスティーブン・イッサーリス(58)が思うところを自身のフェースブックに書いていました。

以下ざっと抄訳すると:

- 自分の演奏をビデオでみるとぞっとすることがあるが、自分の表情や動きは、演奏している音楽に反応した結果生じた、真正のものだと言い訳させて欲しい。
- 昔は先輩チェリストに「やりすぎ」だと注意され、それ以来、自分が感じている以上の感情は出さないようにつとめている。
- 特に若い演奏家が、写真など演奏以外で見た目を重視する傾向は、見ていて恥ずかしくなることもあるが、 見た目が良いのならその間は最大限利用すればいいと思っている。
- 演奏では、偉大な演奏家はほとんど顔の表情は変わらない。カザルスなどは仏像のようだ。 しかし、深刻な音楽もハイドンやベートーヴェンの作品にあるようなユーモアも、同じように苦悶の表情で演奏するのもよくない。
- 演奏の見た目を気にしすぎる必要はない。作曲家は作品に感情を十分込めてくれているのだから、それをそのまま聴衆に伝えること。 しかし、演奏しながらその音楽に反応してしまうのもまた自然なことだ。偽りの仮面をかぶることは、作品と聴衆の間のじゃまになる。
- 残念ながら、メロドラマ風の表情をつくることが成功への近道のように感じたりすることもある。 聴衆もよくそれにだまされるが、音楽的な真実は損なわれる。 われわれ演奏家の目標は、聴衆がわれわれをどう思ったかにでなく、音楽そのものが語ることを聴衆が聴けたかどうかにあるのだ。
[原文]

この問題についてはイッサーリスがほぼこの文章で言い尽くしてくれているように思います。

ただ、もうひとつ「顔の表情をつくることが、体の動きにつながり、そこから奏でられる音が変わる」ということもあるのではないかなと思います。 このことを言っているのが下のマスタークラスの動画で、若手のレオナルド・エルシェンブロイヒ(32)がさらに若手チェリストに
「明るい音色を出すときには、顔を明るくするんだ」
というようなことを言っているのです。

さらに、このことから連想するのは、よくテニスで選手が握り拳を握ったり「カモン!」と声をあげたりといった「ポジティブなボディ・ランゲージ」を出すことが、自分のエネルギーを増大させるとされ、コーチなどにもそうするよう指導される、という話です。 まあ、もちろん、スポーツの試合と音楽の演奏とでは違うのですが…

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2017.02.03
(Fri)

感動は細部に宿る

スティーブン・イッサーリスがフェースブックに書き込んでいた文章が面白かったので。

感動は細部に宿る

先週、私はグラスゴーでドボルザークのチェロ協奏曲を演奏した。 この協奏曲を弾くのは数か月ぶりだったので、いつものことながら、細かく練習して思い出す必要があった。 どんな曲でも常に見直し続けていなければ、どんなにその曲のことを知っていても (私が初めてこの協奏曲を弾いたのはほぼ45年前!何てことだ!)退屈な演奏になる。 これはどんな作品についても恐ろしいことだ。ましてやドボルザークの協奏曲のような名作ではなおのことだ。

練習していて突き当たったのは、この協奏曲で私にとって最も難しい箇所の一つが、一見して簡単そうな3つの音符の並びだということだった。 この箇所は、ホルンによって提示されたのちにチェロがソロで繰り返す(ピアノかピアニシモかは楽譜の版による)美しくノスタルジックなニ長調の第2主題の初めにある。 dvorak-2ndtheme.png

四分音符のラがあって、次に二分音符のファ♯が八分音符とタイでつながっていて、その次に 3つの八分音符、ミ、レ、シがスラーでつながっている。私が難しいと感じるのはこの3つの八分音符のフィンガリングだ。

ミを4、レを2、シを1の指にする人もいるだろう。 あるいは、ミを1、レを4の指にする人もいるだろう。 このどちらもA線のままで弾くフィンガリングだが、D線に下りるフィンガリングもあるだろう。

こんなことは、わざわざ書くほどのことはない、ごく些末な問題に思えるかも知れない。 もちろん聴衆はこんなことを知る必要もない。 しかし、これは大事な問題なのだ。 それぞれのフィンガリングには、旋律の形をゆがめてしまうかも知れない落とし穴がそれぞれにある。

ミに4の指をシフトするフィンガリングは、旋律的にも和声的にも重要でないミの音にアクセントをつけてしまう危険がある。
ミとレの間にシフトするリスクは、指の都合からこの2つの音の間にグリッサンドがついてしまうことだ。 グリッサンドは、2つの音の間の表現力を強調したいという気持からつけるものだ。
D線に下りるフィンガリングは、どうしても途中で音色が変わり、旋律の素朴さ直截さを損なうことになる。

ではどうするか? 私の場合は(チェリストはそれぞれが自分の答を見つけなければならない)レに4の指をシフトする、二番目に書いた案にしている。 ただし、グリッサンドのリスクを避けるために注意しなければならない。だから練習するのだ。 弓圧をほんの少しだけ軽くして、グリッサンドが聴こえないように、ただしスラーのかかったレガートを壊さないように。 これは多くの音楽的テクニック同様、感覚的なもので、成功することもあるし、しないこともある (少なくともこの旋律は2回出てくるから、一回目に失敗してももう一度チャンスがある。いっぽう、一回目にうまくいっても二回目が…ということもあるが)。

上で言ったように、これはたぶん書くほどのこともない些末な問題に思えるかも知れない。 数年前、音楽的同志とは言いにくい、ある若手バイオリニストと共演したときのことを思い出す。 私が、モーツァルトのある弦楽五重奏曲には、4小節フレーズが連続する中に1つだけ3小節フレーズがあることを指摘すると、 彼は怒ったような目で私を見て言った。
「音楽家がそんなつまらないことを言うからクラシック音楽が衰退するんだ!」

私の室内楽経験の中でも愉快なひとときとは言えなかった。そのあとリハーサルを続けることが困難だったことはさておき、 彼が「つまらないこと」と言ったのは間違っているとは言える(クラシック音楽が「衰退」しているというのも、ばかげた話だ)。

作曲家の心の中に深く入り込める手がかりなら何でも貴重で助けになる。モーツァルトは間違って3小節フレーズを書いたわけではない。 彼はわれわれに気づかせるつもりで書いたのだ。そして突然の不規則性によって、聴衆を無意識の内にアンバランスにさせるつもりで書いたのだ。

同じように、ドボルザークのチェロ協奏曲の輝かしい旋律にある3つの音符のレガートを保てるかどうかは、聴衆のその日の音楽的経験を微妙に変える。 どんなに些細でも、途切れたり、間違ったアクセントや動きがつくと、ドボルザークの音楽の静謐さが損なわれてしまう。 これはロミオがジュリエットに愛を打ち明けるとき、俳優が咳をするようなものだ。 それがほんの微かなものであっても、観客の気を散らすことになり、興を削ぐことになる。 われわれ演奏家の仕事は、曲のそんな「細かいこと」の積み重ねを、われわれができる限り正確に演じ、伝えることでその曲の物語を語ることなのだ。

[拙訳。原文。譜例はIMSLPより]

イッサーリスのドボルザークのチェロ協奏曲の演奏(1991年)。問題の1楽章第2主題は6:15くらいから。

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2016.10.23
(Sun)

国際「チェロの日」?

スティーブン・イッサーリス先日の記事でも登場した息子ガブリエル氏が、国際チェロの日 International Cello Day というものを企画しているそう。

[公式サイト, Facebook, Twitter]

パブロ・カザルス(1876-1973)の誕生日である12月29日を世界の「チェロの日」として、それぞれのやりかたで祝おうという提案。チェロ仲間と集まる、チェロの演奏動画を投稿する、またチェロを弾いたことがなければこの日から始めてみる…など、やりかたは自由、というわけ。

偉大なパブロ・カザルスの誕生日を特別な日として祝うことは、世界中のチェリストがもろ手を挙げて賛成するところだと思いますが、果たして大きなムーブメントにまでなるかどうか。

ちょっと連想するのは、バッハの誕生日を祝って街で演奏することが、世界各地で自律的に、ゆるく連帯しながら広がった「バッハ・イン・ザ・サブウェイズ」[過去記事]で、こうした活動にもヒントを得ているのではないかと思います。

タグ : スティーブン・イッサーリス  パブロ・カザルス 

2016.10.19
(Wed)

イッサーリスの髪の毛と首の問題

Cello Suites CD,

来日中止が発表されたスティーブン・イッサーリスが、きのうフェースブックに書き込んでいた文章が面白かったので。

数週間前、息子のガブリエルが(彼の好きなことのひとつだが)パーティに行って、ある若手チェリストから私への質問をあずかって帰って来た。
きみのお父さんは、髪の毛がチェロの弦にからまったりしないのか?
この質問を伝える息子のいたずらっぽい笑顔をどう思ったかはともかく、もっともな質問ではある。

答えはイエスで、よくあることだし、困ったことでもあるのだが、真面目な話、それはあってはならないことだという理由がある。 髪の毛が弦に近いということは、頭がいちばん楽な位置よりも楽器に近づきすぎていることを意味する。これはよくある問題だ。 よく首がC線のペグの下にくっついてしまって、自分の首とチェロのネックとが一体化しているようなチェリストを見かける。 そのほうが安心だという感覚にとらわれているのだろうが、それは間違っている。 首の位置を固定することは緊張の兆候であり原因にもなる。

どんな楽器でも、頭と首は自由でなければならない。 よくピアニストが首を固くして、目だけが忙しく鍵盤と楽譜を行ったり来たりさせているが、そういうピアニストを見るのが嫌いだ。 どうしてそうやって音楽を楽しむことができるだろう? 首は自由にしたほうがいい。首は、頭や肩や背中にも影響する。 また、首を固くしているとリラックスして呼吸することもできなくなる。
私が記憶[訳注:たぶん暗譜]についてパニックを起こすときは、たいてい原因は首を固定してしまっているときで (私の場合、C線のペグの下ではないが、同じ角度になっているとき) そのために呼吸、ひいては思考が妨げられているときだ。 そんなとき私は、意識的にどこか別の方向を向くようにしている。 首の角度がリラックスしていさえすれば問題はない。 その動きそのものが首を自由にしてくれるのだ。 これは頭を揺り動かすこと(私が時々あとで恥ずかしくなるくらいやっていることは知っているが、気持ちいいのだ!)とは違う。
私が言っているのは、多くのチェリストが頭を右でなく左に傾けてしまっていることに対してで、 あなたの頭と胴体の間についている、ヘンリー八世の妻たちが大事にしたもの[訳注: ヘンリー八世は妻たちを次々と斬首したと伝えられている]は、自由で制約を受けないようにするべきもので、あなたの脳から手や腕への大切なメッセージの通り道だということだ。

レッスン、というか質問に対する回答はここまで。
[拙訳: 原文 - Steven Isserlis - Facebook]

後半は、イッサーリスが演奏する姿を思い出すと、少し笑えると同時に、なるほどと思えてきます。

投稿時刻から見て、アジアツアーからロンドンに帰る飛行機の中で書いたか思いついたかして、ロンドンからアップしたのではないかと思います。来日中止はご家族の病気の事情ということですが、少なくともイッサーリスはいつも通りだということがわかって安心しました。

タグ : スティーブン・イッサーリス 

2016.10.18
(Tue)

イッサーリスの来日が中止

今月来日して公演を行う予定だったチェリストのスティーブン・イッサーリス(57)が、ご家族の病気のため来日できなくなり、公演が中止となったそうです。

スティーヴン・イッサーリス チェロ・リサイタルの公演中止について [愛知県・長久手市文化の家]
スティーヴン・イッサーリス~プルースト・プログラム~【公演中止】 [銀座王子ホール]
【中止】10/24(月)スティーヴン・イッサーリス公演について [横浜市・かなっくホール]
スティーヴン・イッサーリス来日中止のお知らせ [招聘元: KAJIMOTO]

チケット払い戻し等の問い合わせは各地主催者までとのこと。

イッサーリスからのメッセージ:

今月に日本で予定されていたコンサートを中止せざるをえない状況となり、とても、とても心苦しく思っています。日本を訪れることは私の音楽人生の中でも最も重要なことのひとつです。日本の聴衆とコンサートホール、そして日本にいる友人たちや日本食をこよなく愛しているからです――つまるところ、私は日本に関わるすべてが好きなのです!共演者のコニー・シーも私も、今回の演奏旅行を大変楽しみにしていました。
余程の緊急事態にならないかぎり、私が日本ツアーを延期するなどということはありえません。しかし残念ながら、急を要する一身上の都合、つらい事情により、ロンドンにしばらくのあいだ留まらねばならなくなりました。聴衆の皆さま、主催者の皆さま、そして友人たちに、切にお詫び申し上げます。出来るだけ早く日本を再び訪れ、皆さまにお目にかかれますように。
心からの深いお詫びととともに
スティーヴン・イッサーリス
[銀座王子ホール,KAJIMOTOより]

イッサーリスは先週、韓国・香港などで公演している様子をツイッターなどで読んでいましたから、突然の来日中止のニュースには驚きました。

実はイッサーリスは、2010年6月にも家族の病気が理由で来日が中止になっていましたが、 その時は闘病中だった夫人が亡くなられた時だったことが、後になってわかったような次第でした。

イッサーリスのご家族の早い快復と、また近い将来に来日してくれることを祈っています!

タグ : スティーブン・イッサーリス 

2016.06.25
(Sat)

EU離脱に反発してトラファルガー広場で「歓喜の歌」

イギリスの国民投票でEU離脱が決まったロンドンで24日夜、音楽家たちがトラファルガー広場に集まって、EUの「国歌」でもあるベートーベンの交響曲第9番「歓喜の歌」を演奏・合唱し、「それでもわれわれはヨーロッパ人」と訴えたそう[Twitterより]。

国際的な行き来の多い音楽家たちは、EU残留を支持する人たちが多かったよう。イギリスのチェリスト、スティーブン・イッサーリスは、国民投票の結果にツイッターで「ああ神様、悪夢が現実になった」と。


タグ : スティーブン・イッサーリス  フラッシュモブ 

2016.03.01
(Tue)

イッサーリスがエルガーのチェロ協奏曲の魅力について語る

スティーブン・イッサーリスがエルガーのチェロ協奏曲の魅力について、ストラディバリのチェロを実際に弾きながら[ClassicFMより]。イッサーリスは4月、ロイヤル・アルバート・ホールでこの曲を弾くことになっているのだそう。

ドラマチックな1楽章冒頭。

Steven Isserlis' guide to Elgar's Cello Concerto, part 1

Why does Elgar's Cello Concerto make us cry? We asked one of today's top cellists.

Posted by Classic FM on 2016年2月29日

これに続く旋律。深い孤独。そこからエルガーが「もし私が死んだ後、モルヴァーン・ヒルズでこの旋律の口笛が聴こえたら、 それは私の幽霊だから恐れなくていい」[The Elgar Society]と言ったとされる旋律へ。

Steven Isserlis' guide to Elgar's Cello Concerto, part 2

Why does Elgar's Cello Concerto make us cry? We put the question to the brilliant cellist Steven Isserlis

Posted by Classic FM on 2016年2月29日

3楽章アダージョ、失われたものへの哀惜の念。

Steven isserlis' guide to Elgar's Cello Concerto, part 3

Why does Elgar's Cello Concerto make us cry? We asked one of today's top cellists…

Posted by Classic FM on 2016年2月29日

4楽章終盤のレント。イッサーリスはこの部分が最も感動的だと。

Steven Isserlis' guide to Elgar's Cello Concerto, part 4

Why does Elgar's Cello Concerto make you cry? We asked the brilliant Steven Isserlis ? here's what he had to say about the work's final moments

Posted by Classic FM on 2016年2月29日

***

今この曲をレッスンで習いながら少しずつ弾いているわけですが、正直に言って弾いてみる前は、1楽章冒頭の悲嘆に満ちた旋律以外は少し印象が薄く、聴いていても3楽章あたりでなんとなく眠くなり、 4楽章冒頭で一度ハッと目が覚めるものの上のレントになったあたりでまた意識が遠のく…ということになりがちでした。 それが実際に弾こうとしてみてようやく、イッサーリスの言う、この曲の持つ「物語」が味わえそうな気がしてきたところです。

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2016.02.10
(Wed)

イッサーリスの記事

イギリスのテレグラフ紙にスティーブン・イッサーリス(57)の近況の紹介記事が出ていました。

Steven Isserlis, Britain's greatest cellist ... [Telegraph.co.uk 16.02.08]
Cello Concertos Lasst Mich Allein

バッハの無伴奏チェロ組曲を弾くときのプレッシャーについて「完璧な音楽、完璧な楽器(ストラディバリウスのMarquis de Coberon,1726)、完璧なホール(ロンドンのウィグモアホール)が揃うのだから、欠けるものがあったとしたらそれは全て自分のせい」。特に暗譜で弾くのは不安で「神経症的になる」「怖い」と。

そのバッハの組曲全曲を昨年5千人のロイヤル・アルバート・ホールで弾いた3つ年上のヨーヨー・マ(60)のことは素直に賞賛し、 19歳のときに初めてヨーヨー・マの演奏を聴いて「もっと練習しなくては」と刺激を受けたことは認めるものの、 音楽的キャリアやアプローチが全く異なり、ヨーヨー・マのことをライバルだとは思っていないとのこと。

その他、メンデルスゾーンの家系を継ぐ音楽一家に生まれ育ったこと、2010年にガンで亡くなった夫人の闘病のこと(代替医療には注意を呼び掛け)、現在のガールフレンドのことなど。また、文筆家としての才もあるイッサーリスの次の著書はシューマンの若い音楽家への教えにイッサーリス自身の教えも加えたものになるとのこと。

イッサーリスは、その演奏だけでなくヨーヨー・マとは全く違った意味で知的なユーモアがあって多才な人なので、好きな演奏家の一人です。ヨーヨー・マよりも若いと聞くと意外な気がするのは、たぶんイギリス人的な暗いユーモアとあの髪の毛のせいだと思われ…これからもますます活躍して欲しいです。

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2015.12.14
(Mon)

バッハに命を救われたチェリスト

スティーブン・イッサーリス(56)のFacebookから。イッサーリスは先週11日、チェリストで現在は指揮者のハインリヒ・シフ(64)とセルビアのベルグラードで初共演したらしいのですが(ベルグラード管弦楽団、ブルッフ「コル・ニドライ」、チャイコフスキー「ロココ風の主題による変奏曲」)、その時にイッサーリスがシフから聞いたという話。

...私[イッサーリス]はバッハの無伴奏組曲を演奏するときの重圧について愚痴を言った(これはいつものことだ)。 すると彼[シフ]は私を見て静かに言った「私はバッハに命を救われたんだ」。
彼は数年前、重い脳卒中にかかり、左半身がマヒする危機に晒されたという。 病院に運ばれ、何が起こっているかがわかると、彼が真っ先にしたことは(おそらくほとんど本能的に、だと私は思う) バッハの無伴奏組曲第1番プレリュードのフィンガリングを思い浮かべることだった。 頭の中に楽譜を思い浮かべ、指を懸命に動かすことを、彼が言うには一日に20時間繰り返した。 すると彼の体はバッハのフィンガリングのおかげで徐々に回復したという。....
[拙訳。原文 - イッサーリスのFacebookページ 写真も]
バッハ:無伴奏チェロ組曲 全6曲 Limited Edition
シフ(ハインリヒ)  ハインリヒ・シフは長いこと(おそらく上のエピソード以前から)演奏活動から遠ざかっていると聞きますが、彼ほどのチェリストの体のどれだけ"奥深いところ"にバッハのフィンガリングが刻まれていたのだろう…と考えてしまいます。

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2015.11.10
(Tue)

ビオラ弾きが街を歩くと

世間にはビオラ・ジョークといって、ビオラ弾きに一番ひどいことを言ったジョークほどうけるという変なジョークがありますが、 これは「ビオラ弾きがニューヨークの街を10時間歩く間にどんなひどい言葉を掛けられるか」という(あくまで冗談の)ビデオ[Slippedisc経由]。

去年、女性がニューヨークの街を10時間歩く間にどれだけセクハラ的言葉を掛けられるかを記録して話題になり、数千万回再生された動画のパロディ。

「うわ、ビオラ弾きだ」「バイオリンが難しすぎたのかい?」...
Hey how do you stop a violist from drowning? ... You take your foot off her head!
[ねえ、おぼれたビオラ弾きを助けるにはどうするか知ってる?...踏みつけてる足を外してあげればいいのよ!」
Hey why are violists' fingers like lightning? ...'cause they never strike twice in the same place!
[ビオラ弾きの指とカミナリの似てるところ知ってる?...二度と同じ場所に落ちない!]
など、ひどい言われよう...

チェロの立場から言うと、ビオラとは音域も座る場所も隣同士なので仲良くしないといけないと思っているし、 特に私のまわりにいるビオラ弾きは、バイオリン経験もアンサンブル経験も長い人が多いし、内声部を受け持つ立場から音楽づくりにはうるさい人が多いので、上のようなビオラ・ジョークにはちょっとピンと来ないところがあります。どちらかというとこういうものは、ビオラ弾きが自虐ネタとして言っているだけなのではないか?と思っているのですが...

チェロ弾きが街を歩くとよく掛けられる言葉は?と考えたら、以前スティーブン・イッサーリスが着ていたTシャツを思い出しました。イッサーリスが主に空港のロビーでよく掛けられる言葉に先回りした答えが書いてあって、飽き飽きした会話をシャットアウトしようというもの。

Tシャツに書いてあることを訳すと

これはチェロです。ギターではありません。
はい。このために飛行機ではもう一席分チケットを買います。
いいえ。フルートにしておけば良かったとは思いません。
いいえ。私は不正はしていません。
[fiddle=フィドル,バイオリン on the fiddle = "不正をして金を儲ける"]
いいえ。あなたに一曲弾いて聴かせるつもりはありません。
いいえ。これをアゴの下に構えたりはしません。
いいえ。これは義理の母ではありません。

最後のは、よくわかりませんが、チェロケースを持って歩いているとよく言われる
「中にだれか人が入ってるんですか?(笑)」
…という問いに対する答えではないかと思われます。

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