2017.05.25
(Thu)

シュタルケルの小物

アメリカのチェロ掲示板でたまたま見つけた話ですが、4年前に亡くなったチェロの巨匠、ヤーノシュ・シュタルケル(1924-2013)の遺品だとする小物が大量にオークションサイトのeBayで売りに出されていました[リンク : eBay]。

これらの小物は、シュタルケルの音楽室や書斎にあったものだとされる約100点で、 チェロや音楽にちなんだ置物、ペーパーウェイト、譜面台、肖像画などの他、ヘビースモーカーだったシュタルケルらしく、たくさんの灰皿も。

どれも開始価格5ドル~20ドルくらいで、あと1週間くらい入札期間があるようです。 コダーイ:無伴奏チェロ・ソナタ(48年録音/Pacific 78rpm)/ファリャ:スペイン民謡組曲(Pacific 78rpm)/コダーイ:無伴奏チェロ・ソナタ(50年録音/Period)
シュタルケル(ヤーノシュ) |

「だとされる」と書いたのは、ふつうシュタルケルほどの巨匠ならば、財団やシュタルケルの場合インディアナ大学などが遺品管理を信託されて、簡単にインターネットのオークションに出てきたりはしないのではないか?と思ったので…それとも、管理する価値もないほどの「がらくた」と判断されたのでしょうか。

もし、確かにシュタルケルが使ったものだという鑑定書のようなものでもつけてくれれば、灰皿1枚でもたいへんな「お宝」になるように思うのですが…

[追記: 関連過去記事] ピアティゴルスキーの旧居売却と遺品アーカイブ

[さらに追記] その後、シュタルケル財団[HP,Facebook]という団体がシュタルケルの遺品を管理しており、シュタルケルの娘さんが記録として残すものを整理する一方、家具等は地元ブルーミントンの古物商で、小物はeBayの上記リンク先で売却する、と書かれているのを見つけました。
だから上のeBayの出品は信用してよさそう。
また、今回売りに出されているもののうち木製の譜面台は、生前のシュタルケルの部屋で収録されたインタビュー動画に映っているものじゃないかという気がしました。

タグ : シュタルケル 

2016.01.29
(Fri)

シュタルケルのマスタークラス

ヤーノシュ・シュタルケル(1924-2013)がエルガーのチェロ協奏曲を教えているマスタークラスの動画。2004年、アメリカのオレゴン州ポートランドで。

去年、G線が切れてもベートーベンのソナタを弾き通したチャイフェッツ氏がアップしていたので見つけ、 今ちょうどシュタルケル編の楽譜でエルガーの協奏曲を弾いているので、時々見ていました。

2004年ということは、シュタルケルはこの年、80歳。 チャイフェッツ氏はかつてシュタルケルに学びポートランド州立大学で教えているので、おそらくその縁でシュタルケルがポートランドを訪れることになったのでしょう。

starker.jpg 言語的・音楽的に理解できないところがあるのがもどかしいのですが、印象的なのが80歳のシュタルケルの圧倒的な存在感。 こんな目で睨まれながらチェロを弾くなんてどんな気持ちがするものか…。

シュタルケルは、この生徒が気持ちを込めるのはいいけど安易にテンポをくずしてしまうのを、言い方は優しいけど厳しく戒めているように思えるのですが…

昔、エルガーの協奏曲を弾く前に、指揮者でこの曲の初演(1919)当時チェロ奏者として立ち会ったジョン・バルビローリ(1899-1970)に電話してアドバイスを求めたら「指揮するの?」と言われたとか何とか(?)…

弓先まで強く弾くために、楽器をヒザで押し返すcounter-pressureというテクニックについて話しているのが10分頃。これは昨年の10月サントリーホールでのマスタークラスで、シュタルケルに学んだバルビさんもおっしゃっていたこと。それまでこのテクニックのことを聞いたことがなかったのですが、シュタルケルが本当にこんなことを言っているんですね。

151228.jpg シュタルケル編の楽譜のフィンガリングを見ると、まず1楽章冒頭で、2小節4拍目のラでG線に下りるように書いてあって、そんな所からG線?と驚くのですが、そのあたりを実践して見せているのが20分あたりから。

ここはデュプレのように3小節のドでG線に下りたくなるところで、私も結局そう弾いているし、この生徒もそう弾いていたよう(ちなみにヨーヨー・マはこの3小節のドでいきなりC線に下りる)。 ポジションがしっかり身についていれば何ということはないんだよ、ということのようです[譜例はIMSLPから]。
elgar1.png

タグ : シュタルケル 

2014.01.31
(Fri)

片目のチェリスト

ラフマニノフ:チェロ・ソナタ クライン(ナタリー) ブラームス:チェロ・ソナタ シュタルケル(ヤーノシュ)

チェリストの写真にはなぜか片目を楽器で隠した写真が多い…そんな写真を集めたひとがいました。

One-eyed Cellists [CelloBello - Aron Zelkowicz]

ヤーノシュ・シュタルケル、ナタリー・クライン、ヨハネス・モーザーなど。

チェリストはそれだけカメラの前でシャイな人が多いのかも知れませんが(?)偉大なシュタルケルを真似てみた…というケースもあるような気がしました。

定番のポーズ、というほどではないにしても、ちょっとおもしろいですね。

上にはなかったチェリストで、私が見つけたところでは、ジャン=ギアン・ケラスも。
21世紀のチェロ協奏曲集 ケラス(ジャン=ギアン)

タチアナ・ヴァシリエヴァも。

趙静さんも…カメラ目線でないところが少し違うけど。
ジャクリーヌへのオマージュ - モーツァルト:チェロ協奏曲 趙静

タグ : シュタルケル  ジャン=ギアン・ケラス 

2013.09.20
(Fri)

シュタルケルのエピソード

シュタルケルの追悼コンサートで演奏するピアニストの練木繁夫さんは、1976年からシュタルケルと世界各地を公演し、90年シュタルケルとポッパーの作品を収録したCDがグラミー賞にノミネートされるなど、シュタルケルと一緒に活躍してこられた方だそう。 Romantic Cello Favorites

このシュタルケルと練木さんのユーモラスなエピソードが、ちょうど今週リニューアルしたばかりの、ニューイングランド音楽院のポール・カッツ氏らがつくるチェロ情報サイトCelloBelloにありました。

演奏旅行中のある空港で、シュタルケルが練木に向かって言った。
「シゲオ、ちょっと用を足してくるからチェロを見ていてくれないか」。
練木は、シュタルケルが行ってしまったあと、ひとりの男がこちらをじろじろと見る視線を感じていた。
シュタルケルが戻ると、今度は練木が用を足しに行き、シュタルケルとチェロがその場に残った。
すると、さっきの男がシュタルケルに近づいてきて言った。
「すみません! いまのひと、ヨーヨー・マさんですよね?!」
[CelloBello - Cellofun : Janos Starker and the Men’s Roomより。拙訳は筆者。]

カッツ氏がシュタルケルから直接聞いた話だそう。

タグ : シュタルケル 

2013.09.20
(Fri)

シュタルケル追悼コンサート

4月に亡くなった偉大なチェリスト、ヤーノシュ・シュタルケル氏(享年88歳)を偲んで氏と親しかった音楽家たちが演奏を捧げる演奏会が、氏が特別名誉教授をつとめたアメリカのインディアナ州ブルーミントンのインディアナ大学で行われるそうで、このもようはインディアナ大学のチャンネル現地ラジオ曲からライブストリーミング中継されるそうです。演奏会は来る9月22日16時(日本時間23日午前5時)から。

IU Jacobs School of Music to present memorial event honoring Distinguished Professor Janos Starker [インディアナ大学 リリース 13.09.16]

演奏者にはもちろん日本からシュタルケル氏に学んだ堤剛さんのお名前も入っていましたし、ピアニストの練木繁夫さんのお名前もありました。

タグ : シュタルケル 

2013.07.03
(Wed)

音楽の友7月号

音楽の友 2013年07月号 チェリストについて特集されていた「音楽の友」7月号。内外のチェリストの動向、とくに堤剛、山崎伸子、向山佳絵子の各先生の特別鼎談が、それぞれの時代の違いなどが垣間見えて面白かった。

加えて特別企画として、4月に亡くなったシュタルケル氏に師事したチェリストたちが、シュタルケルにまつわる、おそらく「とっておき」のエピソードを語った記事。

音楽専門誌はこうした演奏家の生の声が聴こえてきそうなインタビューなどの記事が好き。海外で活躍する日本人プレーヤーとして中木健二さんも。

さらに別の記事では、よく音楽でご一緒させていただいている方が、バンと大きな写真入りで紹介されていて「衝撃」をうけたのだった…

[追記: 「サラサーテ」8月号でもシュタルケル氏の追悼特集が組まれていた。] サラサーテ 2013年 08月号

タグ :   シュタルケル 

2013.04.29
(Mon)

シュタルケル氏出演のCM

ヤーノシュ・シュタルケル氏、日本のCMにも出演したことがあったんですね。

1983年、オーディオのCM、シュタルケル氏58歳のとき。

ここにうつっているシュタルケル氏は今見てもやたらカッコいいんですが、LPレコード、タバコを吸うシーン、ゆったりとしたCMのつくり…といったところには、たった30年ではあるのですが、時代の隔たりを感じます。

タグ : シュタルケル  CMのチェロ 

2013.04.28
(Sun)

シュタルケル氏死去

バッハ:無伴奏チェロ組曲(全曲)
シュタルケル(ヤーノシュ)

偉大なチェリスト、ヤーノシュ・シュタルケル氏が28日アメリカ・インディアナ州で亡くなったらしいですね。享年88。

最後まで教えていたインディアナ大学が発表:

IU community mourns passing of Distinguished Professor, cellist Janos Starker [Indiana University]

偉大な演奏家としてだけでなく、日本の堤剛さんはじめ多くの演奏家を教えた名指導者として記憶されるはず。

コダーイ:無伴奏チェロ・ソナタ(48年録音/Pacific 78rpm)/ファリャ:スペイン民謡組曲(Pacific 78rpm)/コダーイ:無伴奏チェロ・ソナタ(50年録音/Period)
シュタルケル(ヤーノシュ) |

関連過去記事:
バッハ無伴奏組曲全曲を4回録音
コダーイ無伴奏組曲を初めて完璧に演奏
堤先生が語るエピソード
厳しい先生としての逸話

[以下追記]
いただいたコメントにあった「シュタルケル自伝」(2008年、愛育社)。
ヤーノシュ・シュタルケル自伝

ニューヨークタイムズ紙のおくやみ(Obituary)記事。教えを受けた演奏家の名の筆頭に堤剛さんのお名前が。

Janos Starker, Master of the Cello, Dies at 88 [NYTimes 13.04.29]
Janos Starker, one of the 20th century’s most renowned cellists, whose restrained onstage elegance was amply matched by the cyclone of Scotch, cigarettes and opinion that animated his offstage life, died on Sunday at a hospice in Bloomington, Ind. He was 88. ....

インディアナ大学の追悼サイト

タグ : シュタルケル  堤剛 

2013.02.21
(Thu)

地獄のレッスン

チェロの巨匠たちを織り交ぜたジョーク。 英語がうまく訳せているかわかりませんが…。

Three cellists die and appear before St. Peter.
[3人のチェリストが亡くなり、聖ペテロの前に歩み出た。]
※聖ペテロは、天国に至る門の鍵を持っているとされている。

Cellist 1: I have led an exemplary life and studied with Rostropovich.
St. Peter: Go straight to hell!
[チェリスト1: わたしは模範的な一生を送り、ロストロポーヴィチ先生に習いました。
聖ペテロ: 地獄へ行け!]

Cellist 2: I have been very pious, still practice Piatti every day, and studied with Aldo Parisot.
St. Peter: Please go straight to hell.
[チェリスト2: わたしは敬虔な信者で、ピアッティを毎日さらい、アルド・パリゾ先生に習いました。
聖ペテロ: 地獄へ行きなさい。]

Cellist 3: I have nothing to say in my defence except that I studied with Janos Starker.
St. Peter: Please come right in, you’ve been through hell already.
[チェリスト3: わたしには何も言い訳できるようなことがありませんが、ただ一つ、ヤーノシュ・シュタルケル先生に習っていました。
聖ペテロ: おお、こちらに来なさい。あなたは地獄からやって来たのですね。]

バッハ:無伴奏チェロ組曲(全曲)シュタルケル(ヤーノシュ)

イギリスの音楽評論家ノーマン・レブレヒト氏が、米カーティス音楽院の元学部長、ロバート・フィッツパトリック氏から聞いた逸話(anecdote)としてブログに書いていた話。

シュタルケルのレッスンは地獄…ということなのですが、おかしいのはこれがシュタルケル自身が言ったジョークだということ。

つい先日お話をうかがった堤剛さんによると、シュタルケル先生の演奏は完璧で、演奏中の失敗のエピソードなんてないんじゃないか、とのことでしたが、 「いい音楽家になるには酒とタバコとピンポン…」など、お話は面白いかただったようですね。

***

上のブログでこのジョークが話題に出たのは、今ちょうど(日本ではスポーツの現場での体罰が問題になっていますが) イギリスでは音楽教育の現場でのハラスメント的行為が問題になっていて、その話題の流れもあったようですが、それはまた別の話…。

タグ : シュタルケル  ロストロポーヴィチ 

2013.02.14
(Thu)

第3回「チェロの日」参加記(第1日)

2月9日から11日までサントリーホールで開催された第3回「チェロの日」(日本チェロ協会主催)に参加した私的な参加レポート。少し長くなったので1日ごとに区切ってアップします。

****

第1日は、午前中リハーサル。ようやくほぼ全員のメンバーがブルーローズに揃って。やはりメインのヴィラ=ロボスが中心。 指揮の山本祐ノ介さんは、事前練習会のときの厳しさは少し影をひそめ、割り切りが早い印象。とにかく指揮を見て!難しい曲だからつい楽譜にかじりついてしまうが、テンポが頻繁に切り替わるのだ。

午後は「ラーニングセッション」。弦楽器製作の中澤宗幸さんのお話をうかがう。 中澤さんは、楽器づくりとその源になる木とが「好きで好きで仕方がない」ことが伝わってくるお話しぶり。こういう方の仕事のお話は、聞いてただちに「じぶんもやってみよう」とはもちろんならないとしても、聞いていて飽きることがない。 いのちのヴァイオリン: 森からの贈り物 (ポプラ社ノンフィクション) 中澤 宗幸

最先端の技術をもってすると、CTスキャンとNCルータ(これは最近話題の3Dプリンタというものと同じだろうか?)とで名器と寸分違わぬコピーを作ることはできるが(この話は前にニュースで見て書いたことがある)、音は"コピー"できない。やはり五感に頼り、手で叩いてみて、小さなカンナ(実物を見せてもらった)で削る、その繰り返しからでないといい音は生まれないのだという。

震災のがれきの流木バイオリンの話も少しうかがった。流木チェロも近く作られる予定だという。

続いて、堤剛先生、堀了介先生、倉田澄子先生のお三方のパネルトークをうかがう。

この「先生」という呼び方について、以前、堀先生が
「『先生』はやめようよ」
と言ってくださったことがある。確かに直接教えをもらっているわけではないし、こうした場では「同じチェロを弾く仲間」として交流してくださるのは大変うれしくありがたいのだが、みんながどこかでつながっているチェロ界にあって、このお三方のように指導的な立場からみんなをつないで下さっている方には「先生」と、もちろん大いなる親しみをこめて、呼ばせていただきたくなるのである。

パネルトークは、3人の先生のチェロに対するお考えや貴重な経験談をいろいろうかがえた。初めは何から話していいか戸惑っておられたふうだったのが、堀先生あたりが口火を切ると、「そういえばね」と堤先生も倉田先生も次々と楽器や道具のこと、演奏中のハプニングのエピソード、巨匠との思い出など、話してくださったのだった。

堤先生はまじめにお話されていて突然、冗談をおっしゃることがあるので油断がならない。

コダーイの無伴奏チェロソナタについて、作曲された1915年当時には演奏不可能な超難曲だと思われていたのが、堤先生が師事したシュタルケル(1924-)が1950年に完璧に演奏し、このとき初めて…
「ま、今は東急リバブルとかエイブルとかありますけど」
ここでみんなポカンとしてしまった。おそらくこのとき堤先生の頭の中には「playable(演奏可能)になった」という英語が浮かび、そこを飛ばしてlivable, ableとつながったのだろうと察しがついた。ダジャレとしては「高度」すぎて、結果的に「すべった」かたちだった。後でみんなに話したら「よくわかったね」と感心された。 コダーイ:無伴奏チェロ・ソナタ(48年録音/Pacific 78rpm)/ファリャ:スペイン民謡組曲(Pacific 78rpm)/コダーイ:無伴奏チェロ・ソナタ(50年録音/Period)
シュタルケル(ヤーノシュ) |

ピアティゴルスキーにボウイングのことを質問したときのエピソードを、英語の声色まじりで話してくださった時には、皆笑った。考えてみれば、ピアティゴルスキーが話す声を聞いたことがある人はいなかったと思うけど。

盛りだくさんのトークの中で実用的な「学び」を抜き出すとすれば、「スペアの弦は持っていましょう」ということか。

夜は、横坂源さん、上森祥平さん、上村昇さん、林裕さんという若手からベテランまで4人のトッププロによるソロ・コンサート。
横坂さんがペンデレツキと黛敏郎「文楽」、上森さんがコダーイといういわゆる現代もの。これらを続けて聴くのは、緊張感が高く正直言ってきつかったが、最先端のチェリストお二人の渾身の演奏を聞けたのは意義深かったと思う。

客席には、堤さんをはじめとする先生方や、西谷牧人さん、新倉瞳さんらのチェリストも耳を傾けておられた。演奏者も力が込もったに違いない。

後半は、上村さんがバッハ無伴奏組曲3番。アマチュア仲間の間では上村さんのバッハに感動した、と何度も話題になった。林さんの超絶技巧のポッパーのサービス精神には感服。聴きながらなんだか笑いがこみあげてきた。
(つづく)

タグ : チェロの日  シュタルケル  堤剛 

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